合同会社情報アクセシビリティ機構

MEXCBTにおけるアクセシビリティについて

2026年9月28日
合同会社情報アクセシビリティ機構
代表社員 村田 真

要旨

MEXCBTでは、デジタル教科書で求められているアクセシビリティ機能を基本機能として備えるとともに、通常版/配慮版という別コンテンツ方式から脱却すべきである。同一の構造化された問題コンテンツに対して、Personal Needs and Preferences(PNP)に基づき利用者ごとの表示・支援機能を適用し、問題文は原則として画像化せずテキストとして保持することを提案する。

1. デジタル教科書で必要な機能はCBTでも必要である

文部科学省は、学習者用デジタル教科書について、障害等による学習上の困難を軽減するためのアクセシビリティ機能を求めてきた。2026年8月18日の「デジタルな形態を含む教科書の発行・採択等の指針に関する検討会議(第5回)」では、拡大、ルビ振り、色反転、リフロー表示、音声読み上げが挙げられている。また、従来の標準仕様書でも、文字の書体・大きさ・色、行間、背景色を変更できることが規定されている。これらの多くはDAISY教科書でも長年実践されてきた支援機能であり、文部科学省自身が学習上の困難を軽減するために必要な機能として位置付けてきたものである。

同じ児童生徒が、授業ではデジタル教科書を使用し、評価ではMEXCBTを使用する。学習時に必要とされるアクセシビリティ機能が、テスト時には不要になる合理的な理由はない。したがって、次期MEXCBTでは、少なくとも文部科学省がデジタル教科書について必要としているアクセシビリティ機能を、特別な付加機能ではなく基本要件として実装すべきである。

2. 通常版/配慮版ではなく、同一コンテンツに利用者ごとの設定を適用する

紙の試験では、問題内容と表示方法を分離できないため、文字を拡大した問題やルビを付けた問題を別冊子として用意することには合理性があった。しかしCBTでは、問題内容を構造化されたデータとして保持し、文字サイズ、書体、配色、行間、ルビ、読み上げの提示方法を利用者に応じて変更できる。このため、表示方法ごとに別の問題コンテンツを作成する必要はない。

通常版/配慮版を別々に作成する方式では、あらかじめ作成者が想定した少数の組合せしか提供できない。例えば、文字は拡大したいが、背景は薄いクリーム色にし、行間も広げたい児童生徒がいても、その組合せの配慮版が用意されていなければ対応できない。文字サイズ、書体、文字色、背景色、行間、ルビ、読み上げの必要な組合せは利用者ごとに異なり得るため、固定された少数の配慮版でそれらを網羅することはできない。

次期MEXCBTでは、問題コンテンツと表示方法を分離し、同一の問題コンテンツに対して利用者ごとの設定を適用する方式へ移行すべきである。そのために利用できる標準がPersonal Needs and Preferences(PNP)である。1EdTechのAccess for All PNPは、利用者が必要とする支援や表示設定を交換可能な形式で表現するための標準であり、QTI 3のアクセシビリティ機能はPNP 3.0と整合するよう設計されている。

PNPの役割は配慮版を作ることではなく、同一の問題コンテンツに対して、CBT実行環境が利用者ごとの必要な設定や支援機能を適用できるようにすることである。したがって、通常版/配慮版という固定された別コンテンツ方式から、同一コンテンツと利用者ごとの設定を組み合わせる方式へ移行することができる。この問題については、筆者が2026年9月の日本テスト学会第24回大会で発表した「通常の学級におけるCBTアクセシビリティ―デジタル教科書から学ぶべきこと―」でも論じている。

3. 画像化された文字はアクセシビリティ機能を無効にする

CBT実行環境にアクセシビリティ機能を実装しても、問題文が画像として提供されていれば、その多くは利用できない。文字がテキストとして保持されていれば、文字サイズ、書体、文字色、背景色、行間を変更でき、リフロー表示や音声読み上げも可能になる。文字を画像化すれば、これらの機能の多くがそのままでは適用できなくなる。

筆者は前記の日本テスト学会発表において、MEXCBTに搭載された問題を調査し、画像化された文字が多用されていることを報告した。これは個々の問題の作り方にとどまらず、CBT実行環境に備えたアクセシビリティ機能を実質的に利用できなくするコンテンツ設計上の問題である。アクセシビリティ機能を実装するのであれば、その機能を問題コンテンツ側から阻害しないことも同時に要件としなければならない。

WCAG 2.x Success Criterion 1.4.5 Images of Text(Level AA)も、使用している技術で同じ視覚的提示を実現できる場合には、原則として文字画像ではなくテキストを用いることを求めている。したがって、問題文、選択肢、表中の文字など、テキストとして表現できる情報は構造化されたテキストとして保持し、画像化された文字は視覚表現そのものが不可欠な場合に限定すべきである。

4. QTI 3とPNPをアクセシビリティ基盤として利用する

QTI 3を採用すべき理由は、単にQTI 2より新しいからではない。1EdTechは、QTI 3で従来のQTIとAccessible Portable Item Protocol(APIP)を統合し、アクセシビリティ及び受検上の配慮に関する機能をQTI本体へ取り込んでいる。さらに、QTI 3のアクセシビリティ機能はPNP 3.0と連携するよう設計されている。

QTI 3とPNPを組み合わせることで、問題コンテンツそのものと、利用者ごとに必要な表示・支援設定を分離して扱うことができる。これにより、アクセシビリティを個別の配慮版に閉じ込めるのではなく、同一の問題コンテンツに対して必要な支援を適用するCBT基盤として設計できる。1EdTechも、APIPの受検上の配慮に関する機能がQTI 3へ統合されたことを踏まえ、新規のテストプログラムにはAPIPではなくQTI 3を採用することを推奨している。

したがって、QTI 3への移行は単なるファイル形式の更新ではなく、通常版/配慮版という別コンテンツ方式から、同一コンテンツと利用者ごとの設定を組み合わせる方式へ移行するための基盤整備として位置付けるべきである。

5. インタラクションのアクセシビリティは別途検討する

本意見書では、主として問題コンテンツの表示、利用者ごとの設定及び画像化された文字を扱った。一方、ドラッグ・アンド・ドロップのようなインタラクションそのものについては、操作方法が受検者にとって障壁となる可能性があり、キーボード操作、代替操作、フォーカス管理、支援技術との組合せを別途検討する必要がある。これらについては別意見書「MEXCBTにおけるインタラクションの選定について」で述べる。

次期MEXCBTでは、問題コンテンツの表示に関するアクセシビリティと、インタラクションの操作に関するアクセシビリティをそれぞれ満たすことを、CBT全体の要件とすべきである。

6. MEXCBTへの提案

次期MEXCBTについて、次の方針を提案する。

  1. デジタル教科書で必要とされているアクセシビリティ機能を基本機能として実装する。
    文字の拡大、書体、文字色・背景色、行間、ルビ、リフロー表示、音声読み上げを含む。

  2. 通常版/配慮版という別コンテンツ方式から脱却する。
    問題内容と表示方法を分離し、一つの構造化された問題コンテンツを利用者の必要に応じて提示する。

  3. PNPにより利用者ごとのニーズや設定を標準化して扱う。
    必要な支援や表示設定をCBT実行環境へ適用できるようにする。

  4. 画像化された文字を原則として使用しない。
    テキストとして表現できる問題文、選択肢、表中の文字は構造化されたテキストとして保持する。

  5. QTI 3とPNPをアクセシビリティ基盤として採用する。
    問題コンテンツと利用者ごとの設定を分離し、同一コンテンツに必要な表示・支援機能を適用できるようにする。

参考文献

  1. 村田真「通常の学級におけるCBTアクセシビリティ―デジタル教科書から学ぶべきこと―」日本テスト学会第24回大会、2026年9月。 https://info-a11y.jp/papers/jartest2026.html
  2. 文部科学省「デジタルな形態を含む教科書の発行・採択等の指針に関する検討会議(第5回) 資料3 障害等による学習上の困難の軽減について」2026年8月18日。 https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/mext_02432.html
  3. 文部科学省「令和3年度補正予算『デジタル教科書の配信基盤の整備に関する総括事業』標準仕様書」2023年。 https://www.mext.go.jp/content/20230626-mext_jogai01-000030141_004.pdf
  4. 1EdTech Consortium, Question and Test Interoperability (QTI) Specification Documents, QTI 3. https://www.1edtech.org/standards/qti/index
  5. 1EdTech Consortium, High-Level Comparison Between the Latest QTI Versions. https://www.1edtech.org/standards/qti/versions
  6. 1EdTech Consortium, QTI 3 Accessibility. https://www.1edtech.org/standards/qti/accessibility
  7. 1EdTech Consortium, Accessible Portable Item Protocol (APIP). https://www.1edtech.org/standards/accessible-portable-item-protocol
  8. 1EdTech Consortium, Access for All Personal Needs and Preferences (AfA PNP) 3.0. https://www.1edtech.org/standards/accessibility/index
  9. W3C, Web Content Accessibility Guidelines (WCAG) 2.2, Success Criterion 1.4.5 Images of Text. https://www.w3.org/TR/WCAG22/#images-of-text
  10. 村田真「MEXCBTにおけるインタラクションの選定について」2026年9月。