合同会社情報アクセシビリティ機構

MEXCBTにおける相互運用性とベンダーロックインについて

2026年9月28日
合同会社情報アクセシビリティ機構
代表社員 村田 真

要旨

QTI(Question and Test Interoperability)は、テスト問題を異なるシステム間で交換し、利用できるようにするための標準である。しかし現行MEXCBTでは、標準QTIには含まれないMEXCBT固有の表現やインタラクションが問題コンテンツに組み込まれており、それらを第三者が独立して実装するために必要な仕様も一般公開されていない。このため、公開されたQTI仕様だけを実装した第三者のシステムでは、MEXCBTの問題をそのまま作成・解析・実行できない。

これは単なる仕様上の問題ではない。問題作成、問題管理、CBT実行を特定の実装や事業者に依存させ、新規参入や分業を妨げるベンダーロックインの問題である。次期MEXCBTでは、公開された標準だけに基づいて第三者が問題作成システム、問題管理システム、CBT実行環境を独立に実装できることを要件とし、異なる事業者の実装間で実際に問題を交換・実行できることを確認すべきである。

1. QTIはテスト問題の相互運用性を実現するための標準である

1EdTechは、QTIを、問題作成システム、問題バンク、テスト構成システム、学習プラットフォーム、CBT実行環境、採点・分析システム等の間で、問題及びテストのコンテンツを交換するための標準として位置付けている。したがって、MEXCBTでQTIを採用する目的も、テスト問題を特定のシステムに閉じ込めず、異なる実装間で利用可能にすることにある。

本意見書でいう相互運用性とは、単にQTI形式のファイルを使用していることではない。公開されたQTI仕様だけを実装した第三者のシステムが、特定事業者から非公開情報を得たり、MEXCBT固有の修正を行ったりすることなく、問題を作成し、解析し、管理し、実行できることを意味する。あるQTI問題が特定のCBT実行環境でしか動作せず、その環境固有の仕様やプログラムを知らなければ扱えないのであれば、QTIを使用していても実質的な相互運用性は成立していない。

QTI 3は、この相互運用性を改善するためにQTI 2系から大きく改訂された。1EdTechはQTI 3を開発した主要な理由の一つとして、結果が重要な判断に用いられる試験で不可欠なレイアウトについて、QTI 2.2では実装間で明確な相互運用性を確保するための標準化された制御が不足していたことを挙げている。QTI 3では、この問題に対応するため、CSSを利用したレイアウト指定の標準化が強化されている。次期MEXCBTでは、QTI 3を採用するとともに、その目的である実装間の相互運用性を実際に成立させることが重要である。

2. ベンダーロックインはシステムの交換だけでなく市場形成を妨げる

デジタル庁は、ベンダーロックインを、特定ベンダーの技術仕様等への依存によって、他社が運用、メンテナンス又は改修を担うことが事実上不可能になった状態と説明し、政府調達において不当なベンダーロックインを排除する方針を示している。MEXCBTについても、特定の実装だけが問題コンテンツを正しく扱える状態は、この観点から検討する必要がある。

ベンダーロックインの弊害は、既存事業者を別の事業者へ変更しにくくなることだけではない。相互運用性が成立していれば、問題作成、問題管理、CBT実行を同一の事業者が提供する必要はなく、それぞれについて異なる事業者が参入し、競争・分業することができる。逆に、問題コンテンツを扱うためにMEXCBT固有の非公開仕様や特定プログラムを必要とするなら、標準QTIを実装した第三者であっても市場へ参入しにくくなる。その結果、本来なら成立し得る問題作成、問題管理、CBT実行の独立した市場そのものが形成されにくくなる。

日本の学校向け教材市場には、光文書院、新学社等、教科書に準拠したテスト、問題集、副教材を学校へ供給する事業者が複数存在する。問題コンテンツを専門に作成して学校へ供給する市場は、すでに紙や各社独自のデジタル教材では成立している。それにもかかわらず、MEXCBT向けに標準QTIの問題コンテンツを作成し、MEXCBTを含む複数のCBT実行環境へ供給する独立した問題提供市場が形成されているとは言い難い。この差は、MEXCBTにおいてQTIが異なるシステムを接続する公開された共通仕様として十分に機能しているかを検討する上で重要である。

米国の州主導コンソーシアムであるSmarter Balancedは、その対照となる。Smarter Balancedは、加盟州・地域が主導してテスト設計、問題コンテンツ、テスト設計書等を共同で整備する一方、実際のテスト実施は各州・地域が実施事業者と連携して担う構造を採っている。加盟州・地域は、それぞれの実施環境で練習用テストや操作練習用テストを提供している。さらにSmarter Balancedは2021年にQTI 3.0認証を取得し、各州が問題を取り込みやすくするため、問題コンテンツをQTI 3.0形式で提供すると発表した。問題コンテンツを特定のCBT実行環境に閉じ込めないことが、相互運用性を重視する具体的な運用構造につながっている。

3. 現行MEXCBTでは独自かつ非公開の仕様が相互運用性を損なっている

現行MEXCBTの実際の問題コンテンツには、公開されたQTI仕様だけでは解釈できないMEXCBT固有の表現が含まれている。本意見書作成時点で、MEXCBT運用支援サイト、問題作成用マニュアル等の一般公開資料を確認した範囲では、以下の独自仕様について、第三者が既存実装を参照せず独立して実装するために必要な仕様書は確認できない。

第一は、独自名前空間を用いたルビの表現である。MEXCBTの実際のQTI問題では、標準QTIとは異なる名前空間を用いてルビが表現されている。QTI 2.1には標準的なルビ表現がなかったが、QTI 2系の最新版であるQTI 2.2ではルビ表現が標準でサポートされている。現行MEXCBTの方式は、QTI 2系の最新仕様が提供する標準表現ではなく、MEXCBT固有の表現を問題コンテンツに残していることになる。しかも、その独自名前空間の要素・属性の意味や処理規則は、本意見書作成時点で第三者が独立実装できる形では一般公開されていないため、一般的なQTI問題作成システムは同じルビ表現を生成できず、一般的なQTI処理系も正しく解釈できない。

第二は、textReaderInteractionをはじめとするMEXCBT固有のインタラクションである。これらについても、構文、意味、動作、応答形式等を第三者が独立実装できる形で記述した一般公開仕様は確認できない。特にtextReaderInteractionでは、主要な機能の一つであるテキストのマルチカラム表示をJavaScriptによる独自処理として実現している。しかしマルチカラム表示そのものはCSSという標準技術で実現できる。標準CSSで実現可能な表示を独自インタラクションとJavaScriptプログラムによって実現した結果、その問題コンテンツは、MEXCBT固有のJavaScript処理を実行できるCBT実行環境にロックインされる。

第三は、textReaderInteractionにおいてHTMLをエスケープした文字列としてproperty要素に格納する方式である。この方式では、問題文に含まれる段落、見出し、表、ルビ等がQTI/XML文書の構造として存在せず、XML処理系からは一つの文字列としてしか見えない。これは相互運用性上、重大な問題である。例えば、QTI問題群に含まれるruby要素の使用状況を調査する一般的なXMLプログラムを作成しても、エスケープされた文字列の中にあるruby要素は検出できない。MEXCBT固有のpropertyの意味を知り、そこから文字列を取り出し、さらにHTMLとして再解析する専用処理を追加しなければならない。

同じ問題は、validator、変換ツール、問題検索、アクセシビリティ検査、別形式への変換等にも生じる。本来QTI文書の構造として一般的なプログラムから利用できる情報を文字列の内部に隠蔽すれば、QTIを扱う各プログラムにMEXCBT固有の処理を追加する必要が生じる。公開されたQTI仕様だけでは第三者が問題を作成・解析・実行できず、非公開のMEXCBT固有仕様又は既存実装に依存しなければならないのであれば、それは相互運用性の不足であると同時に、技術仕様によるベンダーロックインである。

4. MEXCBTで使用する仕様は第三者が独立実装できる形で公開すべきである

相互運用性を確保する第一の条件は、MEXCBTの問題コンテンツを扱うために必要な仕様を公開することである。原則として、QTIやCSS等の公開標準で表現できるものについてはMEXCBT固有の方式を導入すべきではない。標準仕様に必要な機能が不足している場合には、可能であれば標準化団体へ機能追加を提案し、将来の標準へ反映させることが望ましい。

独自拡張が真に不可避な場合には、その存在を公開するだけでは不十分である。第三者が既存実装のソースコード、非公開資料、特定事業者との契約又は個別の技術支援に依存せず、仕様書だけから独立実装できる必要がある。そのためには、少なくとも構文、データ型、意味、処理規則、エラー時の挙動、具体例及び適合性を確認するための試験データを公開すべきである。

この基準を採用すれば、「独自仕様だから直ちに問題」という議論にはならない。公開された仕様だけから複数の独立実装が可能であれば、その拡張について相互運用性を検証できる。逆に、既存実装を見なければ同じものを作れない仕様は、相互運用のための公開仕様とは呼べない。

5. 問題作成・問題管理・CBT実行を第三者が独立して実装できる構造とすべきである

仕様を公開する目的は、文書を公開すること自体ではない。異なる事業者が、それぞれ独立して問題作成システム、問題管理システム、CBT実行環境を開発し、標準QTIを介して組み合わせられる状態を作ることである。問題コンテンツを標準QTIとして受け渡すことができれば、問題作成を得意とする事業者、問題管理・検証を得意とする事業者、CBT実行を得意とする事業者を、それぞれ独立に選択できる。

QTI 3は、この構造を実現するための基盤としてQTI 2系より適している。1EdTechはQTI 3について、QTI 2.2で不足していたレイアウトの相互運用性を改善し、作成時のQTIコンテンツを実行時に別形式へ変換しなくても利用できることを主要な設計目標としている。ただし、QTI 3を採用するだけでは十分ではない。QTI 3の上に再び非公開の独自仕様を重ねれば、同じベンダーロックインが再現される。

国内にも、問題作成とCBT実行を標準QTIで分離する試みは存在する。YasashiQTIではWordやExcelからQTI形式の問題を作成し、独立したAmp-up Playerで実行する例が公開されている。また、加治佐俊一氏による試作では、学習指導要領LOD等を情報源として生成AIからQTI 3形式の問題を生成する仕組みが公開されている。これらがそのままMEXCBTの本番システムに利用できることを意味するものではないが、問題作成環境をCBT実行環境から分離し、標準QTIを共通仕様として接続することが国内でも技術的に可能であることを示している。

次期MEXCBTでは、標準QTIによる接続を第三者に開放すべきである。標準QTIを正しく生成できる問題作成システムであれば、その開発事業者がMEXCBTの既存事業者であるかどうかにかかわらずMEXCBTへ問題を供給でき、MEXCBT向けに作成された標準QTI問題も、別のQTI準拠CBT実行環境で利用できる構造とすべきである。

6. 相互運用性は第三者実装との試験で確認すべきである

「QTI対応」と仕様書に記載するだけでは、相互運用性が成立していることの証明にはならない。相互運用性は、異なる組織が独立して実装したシステム間で、実際に同じ問題コンテンツを交換・実行できるかによって確認すべきである。1EdTechのQTI適合性検証や認証を利用することは有用だが、MEXCBT固有の要件を含めた実際のシステム間試験も必要である。

少なくとも、次の二方向について受入試験を行うべきである。

  • 第三者の問題作成システム → 標準QTI → MEXCBTのCBT実行環境
  • MEXCBT向け問題作成システム → 標準QTI → 第三者のCBT実行環境

いずれの方向でも、MEXCBT固有の変換、非公開仕様への対応、個別の手修正を必要としないことを合格条件とすべきである。さらに、問題管理システムについても、標準QTIの取り込み・書き出しを第三者製品との間で確認することが望ましい。

この試験を調達上の受入条件にすれば、「標準対応」を名乗りながら実際には特定実装でしか動かない状態を防ぐことができる。第三者実装との交換試験に合格しない限り、QTIを使用していても相互運用可能とは評価すべきではない。

7. MEXCBTへの提案

以上から、MEXCBTについて次の方針を提案する。

  1. QTI 3を標準的な問題交換形式として採用し、公開標準で実現できる機能にはMEXCBT固有仕様を導入しない。
  2. 独自拡張が不可避な場合には、第三者が既存実装を参照せず独立実装できる完全な仕様と適合性試験を一般公開する。
  3. 問題作成、問題管理、CBT実行を標準QTIによって分離し、それぞれを異なる事業者が独立して実装・提供できる構造とする。
  4. 標準QTIを生成する第三者の問題作成システムから、MEXCBT固有の修正なしに問題を取り込んで実行できることを受入試験で確認する。
  5. MEXCBT向けに作成された標準QTI問題を、第三者のQTI準拠CBT実行環境でもMEXCBT固有の修正なしに実行できることを確認する。
  6. 非公開情報、特定事業者との個別調整又は専用変換を必要としないことを、相互運用性の合格条件とする。

QTIを採用する最大の意義は、特定の製品名を仕様書に記載することではなく、問題コンテンツを複数の独立した実装の間で利用可能にすることである。MEXCBTでは、QTIを実際に相互運用するための標準として機能させ、問題作成、問題管理、CBT実行の各市場に第三者が参入できる構造へ移行すべきである。

参考文献

  1. 1EdTech Consortium, QTI Specification Documents. https://www.1edtech.org/standards/qti/index
  2. Colin Smythe, “Finally Final: The QTI 3.0 Release,” 1EdTech, 2022. https://www.1edtech.org/blog/finally-final-the-qti-30-release
  3. 1EdTech Consortium, High-Level Comparison Between the Latest QTI Versions. https://www.1edtech.org/standards/qti/versions
  4. 1EdTech Consortium, QTI 3 Accessibility. https://www.1edtech.org/standards/qti/accessibility
  5. デジタル庁「調達における公平性・透明性の確保/新技術を活用するための調達改革」. https://www.digital.go.jp/policies/procurement
  6. デジタル庁『調達手続マニュアル』, ベンダーロックインの解消・抑制に関する留意事項. https://www.digital.go.jp/procurement/manual
  7. 文部科学省「文部科学省CBTシステム運用支援サイト」問題作成用マニュアル及び「独自問題の作成について」. https://support2.mexcbt.mext.go.jp/manual/、https://support2.mexcbt.mext.go.jp/faq/dokuji-mondai/
  8. Smarter Balanced Assessment Consortium, “Smarter Balanced Receives QTI 3.0 Certification, Will Deliver Test Content in the New, Interoperable Format,” 2021. https://www.globenewswire.com/news-release/2021/11/30/2343468/0/en/Smarter-Balanced-Receives-QTI-3-0-Certification-Will-Deliver-Test-Content-in-the-New-Interoperable-Format.html
  9. Smarter Balanced Assessment Consortium, QTI 3.0 Implementation Guide. https://www.smarterapp.org/news/2025/11/14/QTI3ImplementationGuide.html
  10. Smarter Balanced Assessment Consortium, Interim Assessment Technical Report, Test Administration. https://technicalreports.smarterbalanced.org/2024-25_interim-report/_book/test-admin.html
  11. 光文書院「小学校テスト」及び2026年度デジタル教材資料. https://www.kobun.co.jp/
  12. 新学社「テスト作成システム」及び学校向け教材資料. https://www.sing.co.jp/junior/ejhtestsys/
  13. 日本DAISYコンソーシアム(JDC)・日本電子出版協会(JEPA)共催講演会「読みに困難のある子どもたちに公平なテストを:アクセシブルCBTとPNPの可能性」, 2025年7月18日. https://www.jepa.or.jp/sem/20250718/
  14. 加治佐俊一「生成AIと教育標準でCBTを再構築する――試作から見えた開発と制作の変化」, JEPA公開動画. https://www.jepa.or.jp/sem/20260331/